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prologue

彼女は、月を見ていた。

十六夜。満月から幾らか欠けている。
彼女は、随分と前から、満月を見ていない。
「見ないようにしている」という表現の方が正しいかも知れない。

彼女にとって満月は、「忌むべきもの」であった。

今も彼女の記憶の片隅に残る、遠い日の出来事。
思い出したくはない。しかし、決して消えることのない記憶。

「私にとって満月は、必要不可欠なものだったはずなのに。今ではそれが、私を苦しめる最大の要因になっている」
「…皮肉なものですね」

ぽつりと漏れた、独白。
それは蚊の鳴くような、小さな、消え入るような声であった。

もう一度、十六夜の月を見上げる。

今宵の月に何を思ったのか、それは彼女自身しか知らない。

紅の瞳に、満月には幾らか足りない月が映っている。


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